現在、日本にある会社は法人、個人を問わずにおよそ420万社弱と言われています。
これは、総務省・経済産業省が実施する経済センサスという調査から得られた数字であり、従業員の数などは関係ありません。
従業員数で最も多いのは0~4名という結果でした。
従業員数が10名以上の会社法人は42万社程度となります。
さて、昨今の日本では働き方改革が叫ばれていることもあり、企業ごとに様々な仕事の仕方・勤務体系が導入されています。
株式会社であっても、そうでなくても、組織の中で、ある程度の人数でまとまって仕事をするということを考えたときには、上下関係はもちろんのこと、それぞれの人が行っている仕事を管理する仕組みも必要になってきます。
組織の規模が大きければ、その仕事を管理することだけを仕事とする人もいるでしょう。
組織運営には多くのマネジメントが必要となり、その効率を図ることも企業にとっての課題と言えます。
この組織の管理において「革命」と言っても過言ではない仕組みが出てきています。
それがDAOです。
これは、従来までの組織の在り方を抜本的に覆すような可能性に満ちた組織構造です。
従来までの組織の運営の仕方が「よい」「悪い」ということを言っているのではありません。
ただ、従来までの組織運営には全くないような観点でもあり、すでにこの組織体系で成功をしている事例もいくつかありますので、勉強になるところが多いはずという意味です。
本書では全くDAOについて分からないという方向けに、少しでもイメージを持っていただけるようにDAOという「分散型自律組織」について解説し、その成功事例も紹介しています。
もちろんDAOにもまだまだいくつか解決するべき課題があり、その点についても触れています。
今後ますます加速すると言われているNFTやメタバースとも関連しているトピックでもありますので、そういった内容にも関心を持たれている読者の方の一助になれば幸いです。
1.DAOとは何か?
本書で何度も登場するDAOは「ダオ」と読みます。
この章では、現代、注目を集めているインターネット上の仮想組織DAOについて、細かく見ていきます。
- ◆仮想組織DAOの定義
- ◆DAOは大昔にもあった
- ◆DAOと切り離すことのできないブロックチェーン技術
- ◆その1:組織特有のトップダウンがない
- ◆その2:民主主義の徹底
- ◆その3:匿名で参加ができ、情報がオープン
- ◆成功事例1:ビットコイン
- ◆成功事例2:投資による金銭的リターン
- ◆成功事例3:チャリティーDAO
- ◆Axie Infinity(アクシーインフィニティ)
- ◆The Sand Box(ザ・サンドボックス)
- ◆Decentraland(ディセントラランド)
- 課題1:マネジメントの課題
- 課題2:貢献度による投資分配の課題
- 課題3:法律の整備に関する課題
- 課題4:成長の限界がはやい可能性もある
- 課題5:意思決定が遅く、悪い方向にいくことがある
- 課題6:ハッキングリスク
◆仮想組織DAOの定義
DAOとはDecentralized Autonomous Organizationの略称です。
日本語では「分散型自律組織」と訳されます。
これは、仮想通貨にも代表されるブロックチェーン技術を活用して世界中の人たちがチームとなって運営をしていくものです。
これは、株式会社のようなピラミッド構想になっていなく、フラットな形で形成された組織です。
そこに上下関係はありません。
マネジメントも参加している人たち同士で互いに管理していきます。
DAOでは組織を統率している人がいないのです。
しかし、誰でも意思決定に参加できるのかというと、そういうものでもありません。
重要な意思決定に参加するためには、ガバナンストークンと呼ばれるトークンを保有する必要があります。
これは、日本社会でいうところの、投票権のようなものです。
ガバナンストークンはDAOの意思決定に参加するための仮想通貨になります。
この点は株式会社と似ています。
株式会社でも、保有している株式の数によって会社の運営方針に意見することができます。
そのような場が株主総会になります。
DAOでは、中央管理者がいませんが、規則・ルールは存在します。
それを決めるのにも、ガバナンストークンを保有しておく必要はあるのですが、この、全員で決めた運営方針に従い、今後の発展を目指していく組織体系です。
ルールさえ決めて置ければ、中心で指示を出す人はいなくて済みます。
参加している人がそのルールを守って運営させることができるので、能率も高くなるでしょう。
これによって徐々に「自律」していくのです。
さらに、このプログラムはスマートコントラクトとして組み込まれます。
コントラクトとは「契約」という意味で、スマートコントラクトは、「契約の簡素化」です。
文字通り、契約を簡素に自動化させるプログラムのことを言います。
取引の流れを自動化させることができ、さらに不正の防止、コストカットなど、様々な方面で威力を発揮しています。
ブロックチェーン上におけるこの機能は利用者の間で直接の取引をすることもでき、管理者がいつまでも管理する必要はないのです。
自動販売機をイメージすると分かりやすいかもしれません。
指示された金額を入れてボタンを押すだけで商品が手に入るというのは一種の契約で、人が仲介に入りません。
このような仕組みが、その他の契約でも実行されてきています。
日本では一つ一つの手続きが複雑で何枚も書類が必要な内容(住民票の変更・婚姻・離婚・保険など)であっても、外国ではスマホやパソコン一台ですべての手続きが完了できるというところまで応用させているところもあります。
このような運用の仕組みはすべてDAOが可能にしたものです。最終的には人間が不要とうところまで自律してくるのです。
◆DAOは大昔にもあった
大昔の組織にもDAOに近いものがありました。
具体的には縄文時代あたりの組織になりますが、一定の権力を持った人を中心に置かない組織だったのです。
縄文時代の村組織は中心にお墓を置き、霊的な存在を拝むことはあっても、特定の個人や偶像を崇拝するということはしなかったらしいのです。
しかし、これは組織の中で絶対的なリーダーがいないということであって、何かの作業を行う上でのリーダーは存在していました。
狩りをするときには狩りのリーダーが、漁業をするときには漁業のリーダーがそれぞれの得意を活かして共同作業を行っていたのではないかと考えられています。
自分たちが自然の恵みの中で生きているという考えを共有していたからこそ、収穫した作物・食料についても平等に配当されていたと思われています。
自分たちが努力した分だけ、配分は高くなるはずという考えではなかったのです。
これらはDAO的な考え方に近いと言えます。
しかし、縄文時代後の弥生時代になると、事情が少し異なってきます。
弥生時代になると、支配する側と支配される側という区分が明確になってきました。
最も高い身分は最高権威者と最高権力者で、最高権力者は女王や王です。
今の株式会社の構図でいうところの社長や会長のことです。縄文時代の時にはフラットな組織図であったのに対して、弥生時代からは現代に近いような組織図になっているところが相違点です。
余剰生産物をもつことで富の蓄積という概念もでてきました。
労働に置き換えると、労働する側と労働者を雇う側ということになります。
このように、大昔からも現代の私たちと同じような組織形態を繰り返しているものだと思われます。
最初に始まったのがDAO的な組織であり、その後にトップダウン型の組織、そして今一度DAOのような組織が脚光を浴びているのです。
◆DAOと切り離すことのできないブロックチェーン技術
DAOは中央集権的ではない、フラットな組織体系です。
その中で悪意のある人が存在すると組織が悪い方へ進んでしまう可能性があります。
会社のように個人を管理する人がいないからです。
そこで、重宝されるものが不正を防止するようなシステムや技術です。
DAO組織ではブロックチェーン技術という技術を駆使して組織運営をしていることがほとんどです。
ブロックチェーン技術によってお互いがお互いを牽制することができるようになったのです。
ブロックチェーン技術は取引の履歴を上書きする保存ではなく、別々のファイルにして保存していくようなイメージに近いです。
しかも、それぞれの保存ファイルは、以前の状態がどのようになっていたのかが分かるのです。
このようにして、最新の取引記録から過去のデータがどのようになっていたのか遡ることができます。
お互い、顔も名前も性格も分からない人がチームになって何かを行うときには結束を固めるものが必要ですこの役割を担っているのがブロックチェーン技術と言えるでしょう。
2.DAOのメリットと特徴
DAO組織は既存の会社組織の在り方とは大きく異なります。
ここでは、DAO組織の特徴やメリットを既存の組織と比較しながら述べていきます。
◆その1:組織特有のトップダウンがない
DAO組織は「組織」とは言いつつも、会社のような組織ではありません。
社長も管理職も、あなたの上司となるような人はいません。
強力なリーダーシップを発揮する人は誰もいないのです。
このような組織が機能することを想像することが難しいかもしれませんが、実際に、ビットコインはDAO組織によって開発されました。
決定権を持った人(社長や上司)の意見が組織に共有されれば、その方針に従わざるを得ないでしょう。
でも、DAOでは違います。
自分がやりたい事を全て行えるというわけではありませんが、次の項目にあるような話し合いの中で可決されれば、組織としての方向性となるのです。
会社で働いている一人の人間が社長や役員に会社の方針を直接提案できるということはないかと思います。
自分でやりたいことを提案できるだけでも大きなやりがいとなることでしょう。
組織の方針がどうしても気に入らなければ簡単に抜けることもできます。それを止める人もいません。
明らかに、会社組織での個人の在り方とは大きく異なっています。
会社の中で指示されたり、与えられたりする仕事をどれだけ優秀にこなしたとしてもDAO組織の中では活躍できないかもしれません。
能力があることは大前提ですが、自分から必要な仕事を生み出すようなタイプでなければならないのです。
そうでなくてはDAO組織では生き残れません。
◆その2:民主主義の徹底
DAO型の組織の参加者は意思決定に参加できます。
日本式の上意下達型の意思決定のスピードは速く、組織の隅々までに内容を浸透させることに即効性がありますが、トップの判断が誤っている場合には、会社全体がすぐに悪い方向へと進んでしまうというデメリットがありました。
その点、DAOでは意思決定権を持つ者同士で慎重に吟味をし、様々な方向から課題を分析することも可能です。
参加者のリテラシーの問題もあるかもしれませんが、トップダウン形式の場合には、リテラシーの問題は決定を下した人にすべて依存します。
しかし、徹底した民主主義であるDAO型の組織運営であれば、参加者全員のリテラシーというところまでリスクを分散させることができます。
そもそも民主主義は最悪の事態を招くことを回避するために作られた仕組みでもあります。
DAOは、このことも体現できていると考えるべきでしょう。
◆その3:匿名で参加ができ、情報がオープン
DAOはインターネット上の仮想組織です。
それゆえ、お互いの名前や性別、年齢を知ることは基本的にありません。
このような組織では、誰もが平等に扱われます。究極的な実力主義組織であるという風にお考え下さい。
性別によって、年齢によって、ひいきにされることもありません。
こちらの情報は知られることがない一方で、組織の情報はオープンに共有されます。
会社組織で名前も性別も、顔も分からない人が入社試験を通過して働くことができるということはあり得ません。
会社では、役員に占める女性の割合によって、その会社での女性の地位・立場的状況が伺えるという事例もありますが、日本社会では海外と比較して女性役員の数は少ない傾向にあるそうです。
女性の社会進出が進んできているとはいえ、まだまだ課題が残っているということです。
一方でDAO組織にはそのようなことはありません。能力のある人は女性であろうと、どんどん活躍していきます。これこそがDAOにおける平等の実現であると言えるでしょう。
3.DAOの成功事例に学ぶ
実際にDAO組織によって成功したものの中には、どのようなものがあるでしょうか。
このような成功事例から組織の在り方を学べるヒントがあるかもしれません。
◆成功事例1:ビットコイン
DAOの成功事例としてビットコイン・イーサリアムを取りあげてみましょう。
この2つの仮想通貨については知らない人はいないことでしょう。
仮想通貨の祖先ともいわれるビットコイン、そしてその後を追いかけるように誕生したイーサリアムもまた、DAO型の組織によって開発・発展を続けています。
暗号通貨業界において最初に台頭し、成功をしたのもビットコインであると言われています。
開発・発展においてはプログラムによってのみ実行を続けており、人間の関与は最小限に抑え込まれています。
これによって自律と分散が為されたのです。ただ、注意しておきたいのは、発足時から自律していたのかというと、そうではありません。
ビットコインの開発の大元には「サトシ・ナカモト」(人物名なのか、組織名なのかは不明です。)なる方がいたのも事実です。
ある程度の方向性は最初に決まっていたのでしょう。そこで、その取り組みに賛同する人たちが集まりここまで発展し続けています。
何事もそうですが、自然に発生して自然に広がるということはありません。
最初は中心になるものがあり、そこから次第に分散していくという流れは共通しています。
ビットコインで行われた取引はすべてブロックチェーン上で管理され、その取引記録は参加者であれば誰でも閲覧することが可能です。
ビットコインで取引を行う場合には、その取引を承認する人を必要とします。今までの取引に追加のプログラムを加え、保存する人たちのことです。
これを専門用語で「マイニング」と呼んでいます。
このマイニング作業によって新たな仮想通貨を報酬として得ることもできることから、マイニング作業に本格的に乗り出している人たちもいます。
ただし、この作業には高性能コンピュータなども必要であり、企業単位であればともかく、個人単位で参画することは困難を極めます。
しかし、ここで注目したいのは、マイニングの方法とかではなく、マイニングは誰でも希望すれば参加できるということです。
特定の誰かが、特定の誰かに対して依頼をするという組織形態ではないのです。
これもDAOです。これによって中央集権的な管理をする場所が不要になります。
これに参加する人たちを社員と呼べば、有能な社員が多く集まってきそうなイメージも湧くでしょう。
実際に、マイニング作業をする技術者の腕は確かなものです。
ブロックチェーンエンジニアの数も日本では不足していますが、需要は相当高い技術職になります。このように、DAO型の組織であれば、不特定多数の優秀な人材を集めることもできます。
意思決定の段階で意見が分かれる場合には、その派生組織もできあがります。
ビットコイン関連であればビットコインキャッシュ、イーサリアムであればイーサリアムクラシックがそれにあたります。
固定した組織の中で共存する派閥のような考え方は衰退を招きます。
ビットコインやイーサリアムのような仮想通貨発展に見るように、組織運営の方法を改善するのに役立つヒントを与えてくれるかもしれません。
◆成功事例2:投資による金銭的リターン
スタートアップに投資をすることによって金銭的なハイリターンを得る人たちも出てきています。
投資はDAOの中でも最も有名な形ではないでしょうか。
株式の投資と本質的には一緒です。
自分の資産を初期段階の暗号資産スタートアップに投資をしていきます。
DAO組織が発行しているガバナンストークンを購入し、チャットやコミュニティに招待される仕組みになっています。
この段階では若干、中央集権的な印象を受けますが、徐々に組織が自動化していくと、分散型へと移行していきます。
利益の受け取り方などは国によって法律の制限がかかってしまいますが、何十倍もの利益を生んでいる投資家も多いです。
◆成功事例3:チャリティーDAO
今後、最も可能性のあるシステムであると言われているのがチャリティーDAOです。
世界各国の人たちから寄付金を集め、最終的にどのように使うのかを決定する運用になります。
暗号通貨をベースに寄付金を集めますから、ブロックチェーン技術によって、どのように集められたものであるのか、そして、どこに使用されるのかということが参加者の間で明確になります。
日本円で寄付を集めている団体に自分が寄付をした場合を想像してください。
確かにそこに寄付をしたものが、確かにそこに届いたというところを見届けた人は少ないのではないでしょうか。
寄付を募っている団体が寄付金をだまし取っているということもないと思いますが、本当に全額しっかりと寄付されているのかどうかは寄付した側としては知りたいところです。
ブロックチェーン技術を使って管理しているチャリティーDAOであれば、誰かが不正に寄付金を流用しているということも簡単に発見できてしまいます。
海外間での送金による大きな手数料も削減できますから、寄付された金額の多くの部分を本来の目的である「寄付」に回すことができます。
中国の大手仮想通貨取引所として有名なバイナンス。
日本における西日本豪雨のときには5000万円の寄付をいただいています。
また、ロシアとウクライナの問題においては、ウクライナの難民、子ども達に11億円の寄付を行っています。
これらは、チャリティーDAOがなかったら成せなかった偉業になります。
4.DAOに関連するNFTゲーム
DAO組織によって開発され、まだ現時点でも開発途中であるNFTゲームについて紹介していきたいと思います。
◆Axie Infinity(アクシーインフィニティ)
フィリピンで大人気のゲームです。
フィリピンでは、このゲームをすることによって親よりもお金を稼いでいる子どももいるそうです。
ゲーム内でモンスターを育成したり、戦わせたりすることによって、ゲーム内暗号通貨を稼いでいくというゲームになります。
ゲーム内で土地を保有して、それを売ることもできます。
自分で育てたモンスターについてもNFTマーケットで販売することができるのも特徴の一つです。
◆The Sand Box(ザ・サンドボックス)
イーサリアムのブロックチェーン上で作られているゲームになります。
土地を貸し出すことで不労所得を得ることもできます。
また、自作のNFTゲームを制作し、それをマーケットで販売することによって収益を得ることも可能です。
ボクセルアートというブロックを積み上げてキャラクターやアイテムを制作することができ、もちろん、これらもマーケットで販売することができます。
◆Decentraland(ディセントラランド)
メタバース空間内で土地を保有し、販売することができます。
また、オリジナルのキャラクターや建物も作ることができ、販売することでも収益を得ることが可能です。
5.DAOの課題
会社組織と違ったところも多く、面白さや可能性をもっているDAO組織ではありますが、大きく普及させるためには課題もあります。
課題1:マネジメントの課題
マネジメントについても課題があります。
管理する場所や人が必要ないというのがメリットであったはずのDAOではありますが、情報のやり取りや運営方針の決定をする際のツールとしてはDiscordなども使われます。
Discordそれ自体は中央管理が必要なタイプのツールですから、DAOとは対極にあるものです。
今後のマネジメントについては中央で管理する必要がないような方法も期待されてくるでしょう。
課題2:貢献度による投資分配の課題
組織の運営上は参加者全員に意思決定権があるDAO組織ではありますが、特定の参加者に権利が集中してしまうことも珍しくありません。
意思決定に参加するためにはガバナンストークンが必要になるということはすでに書きました。
このトークンを組織の創業者や一部の富裕層が集めてしまうことも多いです。
そのような場合、表向きには全員が参加できると言っても、物事を決めているのは特定の人たちです。
これは、もはやDAO組織ではありません。
普通の日本企業のトップダウン型の構図になっています。
特に、始まったばかりの組織であればあるほど、始めた人が多くのことを担うようになってしまいます。
中央集権的なところも経験しながら分散していくのがDAOと考えられます。
DAO組織が収益を得た場合の分配はどうでしょうか。これもやはり、トークンの保有数に応じて、もらえる投資分配の量は異なってきます。
全員に平等とはいきません。トークン保有数に応じて分配比率が決まってきます。
このように、一部の富を蓄積した人たちがハイリターンとなっているところも課題と言えるでしょう。
課題3:法律の整備に関する課題
法整備の課題もあります。
DAOについては法整備も追いついていません。
何らかの問題が生じたときの責任は一体誰が取ることになるのでしょうか。
DAOは自律分散型組織という名前の通り、特定の誰かが管理しているということではありません。
組織の不祥事はたいていの場合にはリーダーが取ることで収まることが多いですが、DAOの場合には、その責任を取るべき人がいないのです。
関わっている人全員の責任となるのでしょうか。
そもそも、不祥事のもとになった原因を参加者の一人が悪意を持って意図的に組み込んでいたとしたら、その人だけの責任となるべきではないでしょうか。
周囲の健全な参加者は迷惑を被るだけです。
組織体制的に悪意を許してしまったということにも問題はありますが、それならば、そもそも利用者が安心して使うことはできないのではないかという疑念も生じます。
また、税金の問題も生じます。
DAO組織で運営をして得た収益はコミュニティウォレットという共有の財布に収益が蓄積されることが普通ですが、DAOはどこの国に所属しているのでしょうか。
DAOという組織そのものが国家を超えたボーダーレスな組織になっている以上、どこの国に対して納税の義務が生じているのかということも曖昧です。
このように、法整備が事実上困難であるのも安全な運営と言い切れない課題となります。
課題4:成長の限界がはやい可能性もある
DAOには決まった運営メンバーはいません。
最初に企画を打ち出した時には多くの資金を調達できたプロジェクトも、開発を進めるにつれて、資金は減少します。
最終的に資金が底をついてしまった場合には開発そのものが中途半端に終わってしまうこともあります。
勢いをなくしたプロジェクトが追加で資金を集めることは難しいでしょう。
優秀なエンジニアは離れていってしまい、もっと可能性のあるDAO組織へと流れていきます。
最終的には創業者だけがプロジェクトに残るということもあります。
徐々に時間をかけて成長するということが難しい組織になりがちであり、優秀な人材をとどめておくことができないという点がDAO組織の課題です。
課題5:意思決定が遅く、悪い方向にいくことがある
DAOのメリットでもある全員が簡単に参加できる組織というのはデメリットにもなります。
意思決定の速さが求められる時に、即座に決定を下すことができないということです。
一人の強力なリーダーがいる場合には最終的な意思決定もその人にかかってきます。
しかし、DAOでは完全民主主義ですので、その決定権を一人一人の参加者が持つことになります。
厳密には資金的な貢献度によりますが、意思決定が柔軟に迅速に行われにくいという点は変わりません。
さらに、参政権を持つ人たちの投票によって方向性が大きく変わってきます。
この問題が露呈したのがVenusに関する問題です。
VenusとはDeFiの規格の一つです。
DeFiとはDecentralized Financeのことで、分散型金融と和訳されます。
つまり、銀行などの中央管理者のいない金融を仲介するアプリであるということです。
中央で管理する人がいませんから、支払手数料、振込手数料などの費用が大きく削減できるというメリットはあります。
利用する人同士でお互いに管理しあうようなスステムです。
海外送金時のコスト、時間的なロスの少なさにも注目を集めています。
さて、レンディング(暗号通貨の貸し借りをするサービスの総称)などのサービスを提供するVenusに関する問題に話を戻しますが、意思決定の際に、Venusの乗っ取り提案を掲げたのです。
今と違った新しい運営の組織を作ることを画策したのです。
この提案は最終的にはもとのチームによってキャンセルされていますが、提案そのものは投票によって可決されてしまったのです。
このように、組織としての決定が必ずしも全員にとって有益なものにならない可能性も秘めているという点は課題と言わざるを得ません。
課題6:ハッキングリスク
暗号通貨業界を激震させた事件として記憶に新しいのが「The DAO事件」です。
これは、自律分散型投資ファンド「The DAO」が基盤としているイーサリアムのプラットフォームがハッキングを受けたことによってイーサリアムを流出してしまった事件です。
この出来事によってイーサリアムの価値は半分以以下になり、暗号通貨そのものの危険性を感じた人も多かったのではないでしょうか。
The DAOでは、プロジェクトの運営方針に同意しない投資家たちが預けている資金をDAOから分断することで新しいDAOを作れるという仕組みを採用していました。
この仕組みのことを「スプリット(分割)」と言います。
実は、このスプリットを、資金の移動が完了する前に何度も行うことができてしまったのです。
預金額が100万円に対して100万円の資金移動を、時間間隔を開けずに2回行うことができたということです。
これによって日本円にしておよそ52億円ものイーサリアムが流出してしまいました。
ただし、スプリットによって移動させた資金はすぐに使用することができないようになっていた関係で、時間的な猶予もでき、開発メンバーの議論の末、別のブロックチェーンを作成することによって事態は解決に向かいました。
この方針に賛同できるかできないかでもやはり議論がまとまらなかったらしく、一方はイーサリアム、もう一方はイーサリアムクラシックとして、今日でもどちらの通貨も使用されています。
ブロックチェーン技術そのものはすごく信頼のある技術ではありますが、システムの不具合をついたハッキングリスクがあることもDAOの課題です。
おわりに
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
本書は既存の会社組織と対比した形でDAO組織を述べていますが、どちらが「正解」「不正解」ということを結論付けているのではありません。
会社組織には会社組織の利点がありますし、DAO組織にはDAO組織の利点があります。
両方のよいところを吸収して別の組織運用に活かしてみるのも面白いことかもしれません。
すでに成功しているDAO組織から学ぶことができることも多いはずです。
組織力の改善にもつながるようなヒントを、少しでも感じ取っていだければ幸いです。
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